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山形家庭裁判所 平成5年(家)674号 審判

申立人 手塚悟史 外1名

事件本人 アグハール・ヘルンディア・エーバ

主文

申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。

理由

本件は、申立人手塚悟史とその妻でフィリピン共和国国籍の申立人手塚・ヘルンディア・ローサが、申立人ローサの非嫡出子であるフィリピン共和国国籍の事件本人(1989年生)を共同で養子にすることの許可を求めているものである。従って、本件は法例20条1項前段により養親の本国法に準拠することになるので、申立人悟史についてはわが国の民法が、申立人ローサについてはフィリピン家族法が適用されることになる。そして、両準拠法を検討しても、いずれも特に本件のような養子縁組を妨げるような規定はない。

ただ、法例20条1項後段によれば、養子の本国法が養子縁組の成立につき養子もしくは第三者の承諾や同意あるいは公の機関の許可その他の処分を要件とするときは、その要件をも備えることを要すると定めている。従って、本件養子縁組の成立には、フィリピン家族法188条(2)により養子の実親の同意及び同国の児童少年福祉法典(The Child and Youth Welfare Code)36条により裁判所の養子縁組決定を要することになる(なお、わが民法との関係では798条但書により家庭裁判所の許可を要しない。)。このうち前者の実親の同意については、事件本人の父親は知れず、母親は本件共同申立人ローサであるから、既に同意が得られているといえるが、後者のフィリピン共和国の裁判所の決定はない。この児童少年福祉法典でいう裁判所を外国の裁判所をも含むと解することはできず、また、このような裁判所の決定ということを法律行為の方式と解して、これに法例22条により行為地法を適用することも相当ではない。更に、裁判権の行使は国家主権にかかわるものであるから、外国の裁判所の権限を当然にわが国の裁判所が代行して行使すると解することもできない。しかし、同児童福祉法典が養子縁組の成立を裁判所の決定にかからしめている趣旨は、同法典32条の文言から明らかなように、実親が緊張や心配のため、性急な意思決定をして子を養子に出すことを防止し、かつ、養子と養親とが家族の結びつきを強めることなどの手段として、つまり養子の福祉のために公の機関である裁判所が適当と認めるときに限り養子縁組を成立させるということであって、これはちょうどわが民法798条が未成年者の養子縁組を家庭裁判所の許可にかからしめているのと同趣旨に出たものと解される。このように、両国法の前記条項の趣旨が同じものであるならば、申立人らにフィリピン共和国の裁判所に養子縁組決定を求めることが不可能ではないにしろ、これに多くの困難を伴う特別の事情があるような場合は、例外的にわが国家庭裁判所の養子縁組許可の審判をもって、法例20条1項後段、前記児童少年福祉法典36条の要件を充たすものと解するのが相当である。なお、このことは、あくまでもフィリピン共和国裁判所の決定をわが国家庭裁判所が代行するのではなく、わが国家庭裁判所の審判があればフィリピン共和国裁判所の決定がなくても、わが国法上養子縁組の届出が受理されるべき法的効果が生じ、戸籍官署において届出を拒むことができないことになると解すべきである。

そこで、本件につき前記のような特別事情があるか否かについて事実関係をみるに、申立人夫婦は申立人ローサが出稼人として来日中東京で知り合い、平成5年1月婚姻し、それに伴い妻である申立人ローサが17歳のとき生んだ(同女は相手の男性を明らかにしていない。)非嫡出子である事件本人をフィリピン共和国から引き取って、夫婦の間の養子とすることとし、事件本人は同年7月来日し、山形県東根市の申立人悟史の実家で、申立人夫婦、その後出生した長女、事件本人及び申立人悟史の両親が同居して暮らし現在に至っているのである。そうすれば、今更本件養子縁組についてフィリピン共和国の裁判所が児童少年福祉法典の規定による行政庁の監督下の試験監護を経てその適否を決するのは、同法の前記趣旨にてらしても得策ではなく、またそのために申立人らや事件本人がフィリピン共和国の裁判所に出頭することを余儀なくされ、申立人らに多額の費用その他負担をかけることにもなるので、それよりも、わが国家庭裁判所が未成年者養子縁組の許可にかかる審判手続に準じて、調査審判を行い、養子縁組の可否を決定するのが申立人ら及び事件本人のためにも最も妥当であるというべきである。従って、本件にはフィリピン共和国裁判所に養子縁組の決定を求めることの困難な特別の事情があるというべきである。

そして、本件養子縁組を成立させることの相当性について検討するに、事件本人は6歳の女児であり、実の母親の愛情が欠かせないものであるところ、今後実の母親である申立人ローサと一諸に暮らしていくことができること、申立人悟史も、実の子同様に事件本人に愛情をそそぎ、将来養育していく決意を固めていること、同申立人の両親も本件養子縁組には特に異議がなく、事件本人を自分の孫のようにかわいがっていること、事件本人は現在地元の幼稚園在園中であるが、友人との付き合いもよく、楽しく毎日を過ごし、この4月からは小学校に入学することを楽しみにしていること、経済的にも又は住居環境としても申し分ないことなどの事実が認められ、申立人らと事件本人との適合性は充分であり、事件本人の福祉のために本件養子縁組を成立させるのが相当である。

よって、民法798条本文を準用して、本件養子縁組を許可することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 穴澤成巳)

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